実習生への接し方(指導法)、第二弾となります。
ここでは実習生の『思考タイプ』を見極めることで、それぞれの能力を生かした指導法や、その実践的なアドバイスをご紹介します。
どうぞご指導の参考にされてください。

第一弾はこちらです。

»【言語聴覚士】バイザーが意識しておきたい実習生への「接し方」
*ここでの話しはフレームワークに過ぎません。参考程度にお考え下さい。
【言語聴覚士】バイザーが意識しておきたい実習生への「指導法」
前回(第一弾)でかるくお伝えしました「やる気」について。もういちどおさらいします。
学ぶ人のやる気には2通りあります。
- 獲得フォーカス
- 回避フォーカス
「獲得」は率先的に学び、「回避」は安定性を重視したタイプといわれます。
一見やる気のありそうな学生でも、背伸びしているタイプであれば『回避タイプ』かも知れません。レポートなどで負荷を重ね過ぎず、ゆっくりと指導を施したほうがよいでしょう。
逆に実力を備えた生徒であれば、多少の負荷をかけたほうが伸びます。これは『獲得タイプ』です。
これらの見極めは、その学生の知識レベルや課題の出来など、おおまかですが判断できます。
さて、この点を踏まえたうえで、今回は学生の『思考タイプ』を考えた指導法になります。
実習生の思考タイプ「具体と抽象」を見極める
ひとの「思考タイプ」には2通りあるとされます。
- 具体化
- 抽象化
『具体』は知識レベルを個々に保有していて、それぞれの違いの判断が得意だといえます。
『抽象』は個別のなかから「共通項」を見つけ出し、問題解決(中核)へのイメージ化が得意だといえます。
実習生の「思考タイプ」の判別
わたしは患者さんのカルテを見てもらい、そこから問題点を探ってもらいます。
その問題点の探り方から「この実習生は○○かも?」と目星をつけています。
たとえば、患者の「嚥下評価」と「喫煙歴」を同時に提示してみて、それぞれ個別で病態を判断するのか?それとも全体としてイメージするのか?

といった感じに。
実習生によっては学力に差があるため、単純に知らないといったケースもあるでしょう。
分からない点はバイザーが伝えてあげて、実習生の考え方をすこしずつ把握していきます。
ただし、思考タイプばかりに頼ることはしません。人間の考え方は複雑ですし。あくまで参考までにです。
得意な思考タイプを伸ばしていく
どちらの思考タイプが優れているのかが分かれば、そのタイプを一旦強化していくのが良いかと思います。
実習生が現場に慣れてきて、得意のタイプが板について来たら、もう一方の思考タイプの強化を促していきます。
「具体化」が得意な実習生への指導
具体化するチカラは「目標設定」や「評価」の考え方に現れてきます。
はじめの内はたどたどしく患者さんに接するわけですが、そこから判別した評価を実習生なりに吟味してもらいます。
「WMSTが3だからこの患者さんは…」
「RSSTだと…」
のように、個別から治療戦略を考えるのが得意なので、おのずと目標設定にたどり着けそうです。それも具体的な目標設定に。
たとえば「嚥下機能の改善」などではなく、「ENT時には一口大を3食経口摂取」のような。
いきなりこんな具体性のある目標にはなり得ないでしょうが、『ひとつの知識に執着があるタイプ』はこの点を伸ばせばよいのではと考えます。
具体化タイプが陥りがちな考え方
優先順番が付けられない生徒は、具体化するイメージが強すぎて、ものごとは関連し合っているというイメージが湧いてこないのです。
知識不足ということもありますが、実習生からしたらどれもが大事なので、どこから手を付けてよいのか分からないのです。
「評価・治療」はつなぎ合わせて行うという『シームレス化のアドバイス』をしていくと良いかも知れません。
「抽象化」が得意な実習生への指導
抽象化はものごとを俯瞰的に捉えることができる考え方だといわれます。
少ない知識でもイメージを働かせて「もしかしたらこうかも?」という発想にすぐれ、患者さんの問題点をありとあらゆる角度から探ろうとします。
そのため、バイザーへの質問が多い傾向があります。たくさんを知り、情報を繋いで考ようとするからです。
バイザーは「この評価はここにも影響を及ぼしているん」というような、『共通点を探し出していくアドバイス』なんかが良いかも知れません。

脳画像とか好きなイメージあります(笑)
例として「ICFの因子」からどんなことが分かるのか?的な指導はこういった実習生に響いたりします。
抽象化タイプが陥りがちな考え方
評価全体を統合的にイメージできる分、評価点そのものの意味を重視しないケースがあります。
「評価は大切だけれども、全体の一部分(共通)でしょ?」いった認識になりがちです。
これはその人が未熟とかではなく、ものごとの考え方のクセなので今は致し方ありません。
こういった学生には『評価という大きな礎のうえに、根拠のある方針が成り立つんだ』という核心さをしっかりと指導してください。
こういった実習生は俯瞰的なイメージが得意な分、”問題点のどれもが大切に感じられる”傾向もあります。
そのため、目標設定がとっても「抽象的」なりがちです。
- 嚥下障害の改善
- 日常コミュニケーション機能の確立

はじめは私もそうでした(笑)
こういったケースでは、出来る限り『数値化した目標や方針』なんかの指導が良いかも知れません。
まとめ:具体と抽象の「ちがい」
「思考タイプ」の違いをざっくりとまとめます。
- 具体派:相違点を探し出そうとする
- 抽象派:共通点を探し出そうとする
最終的にはどんなタイプでも、『患者を取りまく個々の原因が、それぞれどのように関係しあっているのか?』を伝えるようにします。
指導法ではなく「接し方」については第一弾をお読みください。

»【言語聴覚士】バイザーが意識しておきたい実習生への「接し方」
問題実習生への対応【考えるチカラの乏しさ】

こちらは気になる方だけどうぞ
問題視される実習生はかならず存在します。
ここでいう問題視とは「考えるチカラにとぼしい」学生のことです。
ある文献によると、問題視される学生の傾向に『自身のコミュニケーション能力を客観視する能力に乏しい』という考察が記されていました。
思考タイプの指導法は「考えるチカラ」を高める
「コミュニケーション能力の客観視」とは、自分のいまの状態を『内言語で統制』するチカラともいえるでしょう。
言語力はそれそれの思考に影響しますから、そういった学生さんにゆっくりと考える時間が必要です。
「RSST」ひとつ出来ただけでも優秀だと考えてください。
出来たことを「思考タイプ」に沿って指導してみます。症例報告にまで至れないな…というような実習生でも、べつに構いません。
その学生にとっては『その時点での精一杯』ですので。
それと、第一弾で説明した『傾聴法』もこういった実習生には効果的です。
バイザーが「感情的」にならないための工夫
ただ、こういう生徒を目の当たりにすると、感情が揺さぶられることもあります。

なんだかイライラしてしまう…!
分かります(笑)
ですがその考えは一旦、収めます。
そもそも学生とバイザーとでは経験が違いますし、歩んできた人生も違います。
なかには挨拶もできない、決められたことしかできないなどの「汎か能力(発達)」を疑うケースもありますが…。

そういう生徒は学校側と相談ですね。
とにもかくも、感情的になったら3~5秒はガマンしてください。
かの有名な『アンガーマネジメント』を実践してみましょう。
わたしの周りでも、ぶっちぎれてしまったバイザーはいますが、キレたあとで後悔するのは本人です。
そうならないためにも、バイザーは前もって『感情のコントロール』を身に着けておきたいことろ。
とはいえ、本当にひどいケースでは丁重にお引き取り願いましょう。厳しい言い方ですが、指導を貫く義理はこちらにありません。
本記事を書くうえで参考にした書籍
ここまでおつかれさまでした。
「思考タイプ」に沿った指導法ですが、参考にさせていただいた本があります。
こちらです。
この2冊は指導のみならず、コミュニケーションの円滑化にも役立てられますので、ぜひお手に取ってみてください。
ではでは~。