「純粋失読」の患者さんへの症例報告です。
とりわけレア症例といわれる純粋失読(pure alexia)ということで、個人の経験をブログにしてみました。
いま現在対応されているST先生らのご参考になれば幸いです。
評価、訓練、感想の流れです。
【症例報告】医学的情報と初回評価
「テレビや文字が分かるようになりたい」
といわれる80代の女性Aさん。性格は気さくで、故郷が私とおなじという共通点から、お互い方言をいいながら楽しくリハビリをした思い出があります。
医学的情報
- 脳梗塞
- 病巣:左後頭葉内側面から側頭葉移行部
- 発症+53日後に当院へ
- 既往:右股関節骨折(ope済)
- ADL:一部介助、移動はW/C
- 退院先:自宅
一見すると、普通にお話ができるおばあちゃんなのですが、文字理解だけはニガテ。
まさに「純粋失読」です。
テレビの面白さが減ってしまった分、リハビリが娯楽だと仰っていました。
初回評価(SLTA)
- 仮名1文字:4/10点
- 読解:単語レベル(漢字仮名)
- 呼称:13/20点
- 音読:単語レベル(漢字仮名)
- 書称:比較的良好
- 書取:短文レベル
視覚たよりでは、in・outともに困難さがありました。しかし、絵をよーく見たり、逐次読みをするとゆっくり正解することも。
なぞり読み(運動覚促通)を試してみたら、はやり促通しました。
純粋失読の特徴ですね。
その他の高次脳、認知機能
物品探索の困難さなど「視空間認知」の低下もみられましたが、右同名半盲も考えられますね。但し、物品操作や理解自体に問題はなく、構成障害はみられませんでした。
「認知機能」は、HDSR11点(減点:見当識・記憶・計算・逆唱・語想起)でしたが、人物の顔やリハビリの内容など、生活上のエピソードは大まかに把握されていました。
【症例報告】純粋失読へのリハビリ
リハビリは当院入院から概ね2か月間行い、改善がみられました。
訓練:1
「フラッシュカード訓練」を行いました。
30枚の絵カードを順に見せて『分かったら、なるべく早く音読する』ように指示をし、誤った回答だけ自己修正を促します。
1枚の絵カードを2秒以内、すべての絵カードを1分以内に読み終えたら、つぎに絵カードに切り替えました。
訓練:2
記銘は「口頭と文字」で行いました。
「なぞり読み」をして促通も行いました。
こちらは負担が大きいので、患者さんの状態に合わせて調整します。
注意課題はキャンセレーションなどを行いました。
中間評価(発症から2か月)
初回から変更点のみ記載。
- 仮名1文字:7/10点
- 読解:短文レベルから低下
- 呼称:20/20(自己修正あり)
- 音読:短文レベルで4/5(逐次読み)
本人曰く「テレビが前よりも、分かるようになった」と。
病棟より、以前よりスタッフとの会話が増え、文字情報の理解力が高まっているとのフィードバックをもらいました。
その他の高次脳、認知機能
「高次脳面」は「BIT&CAT」で、Cut offをやや下回る結果に。ミスは右側で目立ちました。
「記憶面」はリバーミード(標準プロフィール)で8点と重度低下ですが、初回評価と変わらず、日常のエピソードは概ね保たれていました。
「認知機能」は、HDSR:17点(減点:見当識・記憶・計算・逆唱)と初回よりは点数UP。表情のぼんやり感は減って笑顔が増えました。
【症例報告】純粋失読のリハビリを経験して【感想】
純粋失読というレアケースを担当し、感じたことは『症状の切り分け』を考えることなのかなーということ。
例えば、失読症といっても、空間認知や記憶力の低下があるようだと、それが「CVA由来」か「失読由来」なのか、という分析です。
文献上では病巣が限局した純粋失読のほかに、”非典型例”も存在するらしく、臨床上のエピソードと脳画像をしっかり観察して、リハビリ計画を打ち立てたいなと。
診療報酬上、ST介入には限度があるので『治りそうな症状&ENT先の事情』を踏まえたアプローチしていけば、退院後の生活にはこまらないのかと思いました。
ここんとこ重要ですもんね!
残念ながら、空間認知と注意力はまだまだ怪しかったので、そこは社会資源を利用したケースバイケースでの対応なのかなといった感想です。
ではー。
参考文献
» 非古典型純粋失読|失語症研究:1988 年 8 巻 3 号
» 純粋失読のリハビリテーション:単語全体読み促進を目ざしたフラッシュカード訓練とMOR法による検討|失語症研究:1999 年 19 巻 2 号