「認知機能系」の本は数々ありますが、その中でも有名な「コグトレ」をご紹介します。
臨床ではどのように役立てられたのか?といったお話もしていきますので、どんな本を買えばよいのかお迷いのSTは一読どうぞ。
わたしは成人分野で活用しています。
【小児&成人】認知訓練の導入にベストな本はコレ【症例報告あり】
「コグトレ」系の本といったら『宮口先生(精神科医)』の著書がとっても有名ですね。
紹介する本はこちらになります。
100ページほどの薄くてシンプルな「参考書&教材」です。
宮口先生といえば『ケーキの切れない非行少年たち』や『境界知能とグレーゾーンの子どもたち』などで有名な児童精神科医です。
先生の語る「コグトレ」とはおもに、発達に問題がある「小児」へのトレーニング目的だったのですが、高次脳機能障害などの「成人」にも役立てられます。
コグトレの論理と構成
コグトレのおもな対象疾患は以下です。
- 認知症
- 高次脳機能障害
- 発達障害
- 統合失調症
これらの疾患を対象に「神経心理学的リハビリテーション」でのアプローチ法を学べます。
注目したいのは、アプローチしたい認知機能の賦活には『どんなアプローチをすればよいのか?』が具体的に記されている点です。
認知機能別に「アプローチ課題」が用意されている
認知機能別にアプローチ課題が用意されています。
- 記憶
- 言語理解
- 注意
- 知覚
- 推論・判断
たとえば、記憶へのアプローチでは、「何があった?」とか「最初でポン」といった各課題から視覚・聴覚性の記憶へアタックすることができます。
ほかには言語理解ならコレ、知覚ならコレ、といった具合に『どの課題がどの機能へアプローチしているのか?』しっかりと記されているので、課題作成の手間が省けます。
認知訓練のスタートに相応しい一冊。
課題はどのように手に入れるの?
それぞれの課題は付録の『CD』に、すべてPDFとして納められています。
ただちょいと思い悩むのが、CDは前時代的ですし、最近ではCDの挿入口すらないPCも出てきています。それに職場に外部ツールを持ち込むのも…。
できれば今後、ネットからの「パスワード → ダウンロード方式」にしてほしいところですが…。
先生、ご検討をお願いします。
【効果検証】コグトレを使った臨床経験のおはなし
コグトレをつかった私個人の臨床経験はどうだったのか?
とある高次脳機能障害の患者さんへの訓練効果をお伝えします。
結論として、それなりの効果があるのと考えられました。
Aさんの評価
長文を避けるために、手短にお伝えします。
- 30代男性
- 職業:SE
- 診断名:多発性脳梗塞
- 現病歴:高次脳機能障害
- 神経心理学的所見:特記事項なし
- 神経学的所見:左片麻痺
(Brs:Ⅲ‐Ⅳ-Ⅲ)
患者さんの主訴は『社会復帰』です。
ですが、左USN、両側視野狭窄、色彩失認、など数々の問題点を抱えており、私が担当したときはすでに回復期を終え、廃用としての入院でした。
このときすでに、発症から7か月以上経っています。
精神機能、コミュニケーション、高次脳機能面
礼節さは保たれており、自身の趣味をSTに語ってくれることも多く、性格は温和。
音読は左端になるにつれて、読み飛ばしが目立つも、「この文章変だな…」といった気付きあり。ただし、声かけなどの誘導には正確性に欠けた。
書字や構成、色の認識は全体的に不十分だったが、物品を把持することで理解しやすいことが分かった。
TMTはAで8分。Bは中止だった。
生活場面では、自身の左側にある物品探索には時間がかかることが多かった。
コグトレでの訓練実施
訓練頻度は週7日。1日60分。
コグトレは「知覚」課題を中心に、視覚性記憶の向上による知覚のフォローを期待して「記憶」課題など、症状に応じたアプローチを実施。
高次脳機能訓練はSTがメインとし、身体機能はPT・OTが担当した。
最終評価
コグトレは約80日実施。
入院初期より左側への意識が向くようになり、声かけがあれば、左端まで完全に到達できるようになった。
ご本人も『あれ、文章変わりました?』と、読み飛ばしていた文字が把握できるようになり、訓練で”左半側への意識が拡大”しており、生活場面でも同様の様子がうかがえた。
構成は、平面や立体図の課題では構成力にまとまりがみられ、注意面では、Aの所要時間が6分と2分軽減した。
ただし、色の認識は十分とはいえなかった。
PT・OTからのフィードバック
高次脳機能訓練は『身体機能から』なんていう文言があるように、チーム医療による治療シナジーは言うまでもありません。
ただし、STリハを重ねるにつれ、歩行訓練中に左側への意識や、人とすれ違いに気づけるようになるといった、症状の変化への報告をいただきました。
コグトレを実施しての「感想」
若年のかたへのリハビリだったため、必ずしも「コグトレ」による治療効果かどうかは言い切れません。
とはいえ、発症から7か月経過してのリハ介入だったことを考えると、その僅かながらの変化は、患者主訴の『社会復帰』に幾ばくか近づけたのではと自負できます。
高次脳へのアプローチとして、症状別に課題を用意できるのはありがたいですし、難易度も患者さんによって決められるのはメリットだと思います。
若手からベテラン、小児・成人問わず、役立てられる本ですので、どの現場にも一冊、置いてみてはいかがでしょうか?
ではー。