こんにちは。かづおです。
STのみなさんは「脳卒中後の構音障害」の治療をどのように行っていますか?

私は日々悩んでおります…(汗)
そんななか、ディスの治療法を”徒手的”に解説している革新的な参考書を発見したので、その内容と実践した結果をおつたえします。
「ディサースリアのリハどうしよう…」とお悩みのSTなら一読の価値がある内容です。
※本記事はいち言語聴覚士の見解による執筆であり、病態把握などの完璧な手引きではございません。
ご意見があれば「お問い合わせ」にてお聞かせください。
【参考書紹介】ディサースリアへの徒手的アプローチを実践した結果
今回参考になった本はこちら。
驚いたのが、リハビリ関連の本でありながら¥1,100(税込)という低価格です。

参考書にしては安いです。
70ページと薄いものの、手技の解説や効果判定、それに音響分析の結果など、ボリュームは悪くありません。
ディサースリアに関わりのあるSTなら手に取って損はしないとおもいます。
私自身、本書を参考にしたことで”それなりの治療結果”を出すことができました。
(詳細は後半で)
徒手的アプローチによる構音障害の新たな治療法
本の内容を端的にお伝えすると「手技をもちいた運動性構音障害の治療法」です。
ディスの”手技”は古くから存在していますが、多くは具体的記載に乏しかったといえます。
そこで著者はディサースリアの徒手的アプローチとして「IMSTD」(Integrated Manual Speech Therapy for Dysarthria)という治療法を開発されたようです。
そのIMSTDとは?
内容をざっくりとお伝えします。
ディサースリアの徒手的アプローチ「IMSTD」とは
著者によるとIMSTDとは、かの有名な「川平法」を組み込んだ治療技術とのことです。
治療アプローチ(部位)は以下になります。
- 喉頭
- 姿勢
- 呼吸
- 顔面
- 舌
これらをすべて手技で実践するため練習が必要です。
姿勢調整やハンドリング、緊張の評価などを含むため、触れることになれていないSTはPT・OTに相談すると良いかもしれません。
実践して気になった点は、”喉頭の位置補正”という手技です。こればかりは特別難易度が高いと感じました。

そのほかは再現性が高いとおもいます。
詳細は「脳卒中後の構音障害への徒手的アプローチ」をお読みください。
IMSTDはその人らしい発話をうながす
IMSTDの終了後は発話をともなう訓練が必須であるとしています。
そこでは単音節や無意味語などは推奨されていません。あくまで自然なスピードでの発話を促すとのことです。
そのため”その人らしい発話”に導ける治療法だと考えます。
ディサースリアの治療に「IMSTD」を取り入れた症例報告
私がIMSTDを実践した患者さん(Aさん)の治療結果をここに記します。
Aさんの構音タイプは「失調性」でした。
結論としては効果があると考えられました。
Aさんの評価「失調性構音障害」
長文を避けるため手短に報告します。
Aさんの評価です。
- 80代男性
- 診断名:脳梗塞(小脳)
- 現病歴:ディサースリア、軽度の嚥下障害
- 神経学的所見:左右上下肢筋力低下
(ADLは移動時のみ歩行器) - 神経心理学的所見:特記事項なし
ST面での主訴は「聞こえるように話したい」。
退院先は自宅。
発声機能は聴覚印象で粗造性・気息性を認める。
最長呼気持続:2秒。MPT:5秒。
舌運動は分離性に欠け、右側への偏移あり。
単音の交互反復で音がつながりやすく、奥舌音で顕著。前舌はやや低緊張ぎみ。
発話明瞭度3.5ほど。構音の歪みは著明。
会話は周囲からの聞き返しや推測・援助を要した。
IMSTDでの訓練実施
IMSTDは発症から60日目より開始。
訓練頻度は週7日。1日60分。
IMSTDは「姿勢→呼吸→舌」の順で実施。

治療はIMSTDのみ行いました。
後半の時間には自由会話を行いました。
最終評価
IMSTDは約一か月の実施。
粗造性は残存するものの、気息性はやや改善。
最長呼気持続:2→5秒。MPT:5→7秒。
舌の巧緻性は向上し、前舌の低緊張は軽減。
音の歪みは会話レベル以外では概ね軽減。
発話明瞭度は2~2.5に改善。
ご家族からは「前よりも聞こえやすくなった」とフィードバックあり。
IMSTDで治療をして感じたこと
IMSTDは評価に基づき、必要な部位に取り入れるだけでもそれなりの効果があると考えられます。

治療効果の即効性も感じました。
ただ、手技ですので練習が必要です。
それとAさんはリハビリ中「やりがいがある」という発言をされていました。
患者さんにもよりますが、IMSTDは治療内容に運動的な割合が多いため、よりリハビリを実感しやすいのでは?と感じました。
患者さんの『リハ意欲形成』としても役立つ治療法だとおもいます。
さいごに
IMSTDは構音障害の治療を発話だけに囚われず、リハビリを行うことができます。
発話速度調整や音読療法などに頼り切らないため、新鮮な気持ちで臨床に取り組めました。
あらためてディサースリアへの徒手的アプローチの必要性を感じた参考書です。
ぜひ参考にしてみてください。
ではでは。
ディサースリアのタイプと障害部位・症状・古典的病名
ディサースリアのタイプを表にしておきます。
障害部位 | 症状 | 典型的病名 | |
弛緩性 | 下位運動ニューロン、 神経筋接合部、筋 | 発声発語器官の筋緊張低下 | 脳幹部の脳卒中、重症筋無力症、 多発性硬化症、ALS(初期) |
痙性 | 両側上位運動ニューロン | 発声発語器官の筋緊張亢進、低下 | 両側大脳の脳卒中、橋の脳卒中 |
UUMN | 一側の上位運動ニューロン | 発声発語器官の筋緊張亢進、低下 | 一側性の脳卒中 |
運動低下性 | 大脳基底核 | パーキンソンニズム | パーキンソン病、パーキンソン類縁疾患 |
失調性 | 小脳 | 失調症状 | 小脳の脳卒中、脊髄小脳変性症 |
運動過多性 | 大脳基底核 | 発声発語器官の不随意運動 | ハンチントン病 |
混合性 | 複数の病変(大脳+小脳) | 多彩 | 多発性硬化症、ALS |