成人領域では比較的若年である50代女性へのリハ報告です。
運動性構音障害(Dysarthria)のリハでも『理学療法の文献や運動的なアプローチ』を参考にした症例さんです。
Dys治療への参考になれば幸いです。
【症例報告】医学的情報と初回評価
とある、50代女性の患者さんとのリハビリでした。
気になった点は、年齢のわりに『そこそこ姿勢が悪かった』ことです。アライメントの崩れは構音へ悪影響をもたらします。
STとして姿勢への介入は非専門ながらも、POとの協力により、構音障害の改善が認められました。
医学的情報
- アテローム性脳梗塞
- 病巣:左橋縁から左前頭葉中心前回
- 発症+27日後に当院へ
- 既往:脳幹部梗塞、うつ病(45歳)
- ADL:介助歩行 → 自立
- 退院先:自宅
初回評価
- 【精神機能全般】JCS ‐ I – 1(ぼんやり感)
- 【高次脳】TMT‐A:61秒、B:中止
- 【認知機能】HDSR:28点、MMSE:22点
- 【知能検査】コース立方体:IQ52
認知検査では点数乖離がみられました。
恐らく機能の「うつ」が関係していると思われます。
歩いているときに、周囲環境への気配りがすこしニガテでした。
AMSD
- 発話明瞭度:2
- 自然度:3(開鼻声)
- 声質:G1R0B1A1S0
- MPT:14秒
軟口蓋挙上は↓、舌の動きは右偏移。
音の交互反復はすべて減弱で、音の歪み&速度低下、音の平板化あり。
あと、頭部前方姿勢でした。
軽度から中等度の『UUMN』ではと考えました。
【症例報告】理学療法の「文献」からリハビリを考える
リハビリにはとある文献を参考に、治療法を考えました。
» 体幹と理学療法
» 運動性構音・嚥下障害に対する神経発達学的治療
この文献を私なりに端的にまとめてみました。
文献のまとめ
- 体幹の安定により、呼吸や発声の効率が期待できる
- 構音のコントロールには体幹・頭頚部の正常な姿勢反が必要
- 発声筋群の緊張が減ることで、構音の協調性が向上する
「頭部前方姿勢」による弊害
「頭部前方位」の姿勢の患者さんって見かけますよね。
背部の筋力は低下していて、円背気味。
骨盤は後傾で、肩甲骨の可動域は狭く、発声筋群としては『後頭下筋群や胸鎖乳突筋などの過緊張』が考えられます。
この状態だと、横隔膜と胸郭の動きは広がりは減ってしまい、呼吸効率は下がり、発声がままなりません。
嚥下にも悪影響ですよね。
すくなくとも、STでもできそうな簡便な『背部トレーニング』を取り入れたいところです。
これらを踏まえて
姿勢が構音に影響を与える以上、『構音障害はSTだけの専門性ではない』と私は考えています。
フィジカルが不得意な私は、STでもできそうな簡便な治療法をPOから教えてもらい、リハビリへ挑みました。
そのほかのアプローチはよくあるST訓練と「IMSTD」を実施しました。
»【参考書】ディサースリアへの徒手的訓練の実践結果【症例報告あり】
【症例報告】UUMN型ディサースリアへのリハビリ
リハビリは当院入院から概ね2か月間行い、改善がみられました。
訓練:1
患者さんを「端坐位・立位」の状態にして『お尻の横から外乱刺激(前方へチカラを加える)』を与えて、バランスをとってもらいました。
始めはすこしの力でバランスが崩れていましたが、リハビリが進むにつれ、平衡を保てるように。
支持が取れてきてからは「端坐位 ➡ 立位」にアップしました。
訓練前には必ず、POからの助言を
STがバランス系の訓練を行うには、POの評価と助言が欠かせません。
仮にも、”足底部の感覚がない”などの患者さんに対し、今回のような方法を身勝手に行うのは危険です。
リスク管理をPOほどできませんし、POの治療に悪影響を与えかねません。
訓練:2
- 軟口蓋挙上
- 口腔チッキ
- 口唇への抵抗
- 舌へのストレッチ
- 背部筋へのトレーニング
AMSD評価に基づく治療プログラムと、徒手的構音訓練「IMSTD」を併用し、短文から長文へと構音の調整を実施。
注意機能への訓練も実施。
背部筋へのトレーニングは先述した「文献」を参考に行いました。
最終評価(発症から2か月)
初回から変更点のみ記載。
- 【高次脳】TMT‐A:52秒、B:180
- 【認知機能】HDSR:29点(減点:計算)
- 【嚥下機能】食塊流出はみられなくなった
笑顔が以前よりも増え、歩行中での周囲への気配りがみられるようになりました
AMSD
- 発話明瞭度:1
- 自然度:2(開鼻声残存)
- 声質:G1R0B0A1S0
- MPT:16秒
軟口蓋挙上、音の交互反復、音の歪み&速度低下、音の平板化はすべて改善しました。
「頭部の前方姿勢」は、初回ほど気にならなくなりました。
【症例報告】若年ディサースリア患者へリハビリを経験して【感想】
先輩PTから『安定した構音は、下肢から作られる』という助言をいただきました。
下肢の土台(姿勢)つくりが不安定だと、微細さが求められる構音器官および横隔膜(呼吸)は安定しません。筋緊張だって変な伝わり方をします。
これは嚥下も同じですね。
このことから、STでもフィジカルへの学びを疎かにできない…と、感じることに(汗)
脳卒中の構音治療はSTだけでなく、POの助力、チーム医療の重要性を痛感した症例さんでした。
ではー。