言語評価では「わかりにくい」とされる発語失行と、他の症候との『鑑別ポイント』について書かれた文献をまとめてみました。
要点を得られるように記してあります。お役立てください。
発語失行にお悩みのSTはどうぞ!
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【失語評価】発語失行の鑑別ポイントを詳細に調べてみた【文献情報】
発語失行とは『変動性を伴う構音の歪み、音の途切れや引き延ばし、アクセントや抑揚の異常』とされます。
STの間では「わかりにくい」とされる症状ですが、鑑別ポイントさえ覚えてしまえば、苦手意識は薄れていくハズです。
発語失行の「鑑別診断ポイント」の確認
発語失行の「鑑別基準」には変遷がありましたが、まとめると以下の7つで鑑別していきます。
まずは「McNeilら」の4症候から。
- ①:音の歪み(音の置換ふくむ)
- ②:子音と母音が引き延ばされ、遅い発話として延長される
- ③:音、音節、単語の分離
- ④:プロソディーの異常(②と③に由来する可能性)
そしてこの3つを加えます。
- 発話施行ごとの変動性
- 構音運動の探索と自己修正
- 発話負荷による誤りの増加
とくに『音の歪み』は音韻性錯語との鑑別ポイントとなります。
発語失行の「サブタイプ分類」も知ろう
発語失行には「サブタイプ」が4つあります。あまり聞きなれないワードかも知れません。
サブタイプは『発話特徴&病巣』で分類します。
- Ⅰ:音の歪みが目立つ(Brodmann4野)
- Ⅱ:音の途切れが目立つ(Brodmann4+6野)
- Ⅲ:音の歪み&途切れ(左榜側脳室皮質下)
- Ⅳ:変動性のある音の歪み(左線条体)
Ⅳにおいては臨床的に『構音の歪みの純粋型』とされていて「声質の低下」も伴う、という報告もあります。
Ⅳは臨床でも経験しています。
» 失語症高次脳機能研究|第 29 巻第 2 号|皮質下性失語の特徴
発語失行のアセスメント方法
発語失行の評価には『発話特徴』と『重症度』の2つが基本事項になるとされています。
①:発話特徴
これらの方法で発話負荷をかけ「発話特徴」を評価します。
- 自由会話
- 絵画絵の説明、短文音読・復唱
- 単音節(パパパ…)
- 単音節系(パタカ…)
- 単語の復唱(生き字引…)
②:重症度の評価
「構音の誤り」や「音の途切れ・引き延ばし」などの出現頻度や、発話明瞭度での評価が有用とされています。
発語失行のアセスメントに有効な「ツール」は?
『音声学的特徴(構音的)』と『プロソディー的特徴』での観察が効果的だとされます。
そのアセスメント法として「ASRS」と呼ばれるツールが信頼性・妥当性のうえで有益だとされています。
「発語失行」以外の症候と鑑別してみる
ここは『重要』です。
文献では「発語失行」と、3つの症候との鑑別ポイントを紹介していました。
- 喚語障害
- 音韻性錯語
- Dysarthria
「発語失行と、どう違うの?」などと、迷う症候ですよね。但し、ここをマスターすれば…!
では、みていきましょう。
喚語障害 vs 発語失行
まず「喚語障害」の”有無”を明らかにします。以下文献より。
呼称や語列挙が低下していたとしても、書称や書字が保たれていれば「喚語困難はなし」と判断できる。
ただし、発語失行には「書字障害」が併発するケースがあるため『呼称と復唱・音読における成績差をおなじ単語で評価・鑑別』を行います。
具体的には、呼称のみが極端に低下していれば「喚語困難がメインだと判断」されるとのこと。
しかし、3つともすべて低下であれば「音韻選択・配列」および「発語失行」が前景に立つ可能性があるとされます。
音韻性錯語 vs 発語失行
音においては両方とも「音の変動性」は存在しますが、音韻性錯語には「音の歪み」がありません。
いわゆる『音の置換』の”有無”が鑑別のポイントになるとされます。
もし「構音の歪み」を伴わずに、音の入れ替え(置換)が生じているのであれば、その時点で「発語失行」はなしと判断できる。
しかし、音が歪みながら置換も出ているケースはどう判断すべきでしょう?
鑑別方法としては『仮名文字での書称や書取』が有効であるとしています。仮名文字が書けるということは脳内で音の選択・配列ができている証拠だからです。
つまり、仮名文字が書けるのに、発話では「音の置換」が生じるケースでは、発語失行に由来する置換だと判断できるとしています。
ただし、発語失行と書字の両者が障害されることもあるので、病巣などからも、手がかりを求める必要があります。
Dysarthria vs 発語失行
音においては両方とも「構音の歪み」は存在しますが、Dysarthriaには「音の変動性」がありません。
ここで重要な鑑別ポイントは『発生発語器官の運動制限』の”有無”だとされます。
例えば「か」の反復で、さほど音の歪みが目立たなくても、下顎を抑制した途端に、奥舌挙上の運動範囲が狭小化した。
このほかには「声質の変化」が伴いやすいとされます。
ただし、失調性のDysarthriaは「変動性&声質変化」を持つため、脳画像や分離運動の評価などでしっかりと鑑別する必要があります。
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ではー。