こんにちは。かづおです。
私は実習中の先生から言われた忘れられない”一言”があります。
VFのない病院にいったらどうする?
嚥下をあつかうSTにとって、VFは心強い検査です。
ですが、すべての医療施設に設置されているわけではありませんよね。
そういった環境下で嚥下を支える味方のひとつに聴診器があると思います。

そう…頸部聴診法!
ここでは、頸部聴診法でわたしが意識している3つのこと+重要点を書いていきます。
※本記事はいち言語聴覚士の見解であり、嚥下病態把握の完璧な手引きではありません。
ご意見のある場合はコメント欄にてご指摘くださいませ。
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【嚥下】VFのない病院での頸部聴診法でSTが意識していること
私が意識している頸部聴診法(嚥下)のポイントは3つ。
- ①:既往歴の把握
- ②:嚥下音・嚥下前後の音評価
- ③:訓練から、臨床へとつなげる
説明していきます。
※嚥下評価は頸部聴診法だけではなく、さまざまな評価法を重ねて総合的な判断をしていきます。
1.既往歴の把握
言うまでもないですが、まずは既往歴。
過去のCVAやOpe歴、呼吸疾患、服薬状況、喫煙歴など、”いままで”を知らなければ、未来の方向性は定められません。
- 既往:前情報をまとめて
- 現在:現状を捉えて
- 未来:どうしていくのか?
たとえば、肺炎は何かしら原因が積み重なって発症するため、既往歴と現状を”統合して考える”必要があります。
「なぜ肺炎を発症したのか?」という原因を追究し、現状に加味して考えなければ、退院後の再発率は高まり、STリハが無駄になる可能性があります。

これまでの生活状況など、想定できる病気の根本を探ります。
よく「長期目標がわからない~!」という声がありますが、既往歴をよーく分析してみると、目標設定の手掛かりが見えてきます。

既往歴…奥深い!
それと、進行性の疾患には注意しています。
過去にあったのが、PDの患者さんで「転院1週間前にVFを行った」というサマリー情報です。
VFといえど、絶対ではありません。
嚥下は常に変化する病態のため、前院サマリーは情報のひとつと認識しつつ、抜かりない評価をこころがけています。
2.嚥下音・嚥下前後の「音評価」
”嚥下前~後、ならびに呼吸の前後音”を聴き取ります。
まずは開始前の”音”を調べるところからスタートです。

正常な音を知ったうえで評価します!
以下、嚥下音の生理学的考察です。
- 最初のクリック音
(食塊が食道入口部に達したとき) - 最後のクリック音
(食塊が食道に入り切ろうとする瞬間) - 食塊の流動音
(2つのクリック音の間)
評価では、食物および水分(とろみあり・なし)などが用いられ、各種評価法の則り、そのうえで、音のチェックも並行しておこないます。
嚥下障害のある患者さんは各クリック音に変化が見られます。
クリック音のタイミングがズレていたり、消失していたりします。同時にアブノーマルな音(逆流音・湿性音など)も聴取されることがあります。
これがsilentとなると、ムセることなく、呼吸変化や著明な残留音が聴取されます。

バイタル変化があるかも確認!
胸部では、コロコロ、バリバリといった肺雑音や、Air入りの具合も確認します。
音を調べつつ、喉頭のうごき、追加嚥下、肋骨の可動性や左右差、ムセのパワーなど、目視できる範囲もチェックして、Best Swallowへの道を探るようにしています。
※情報量が増えるので、詳細は割愛します。
ただ、はじめのうちは難しく、トレーニングは欠かせません。
そこで私がお世話になった2冊をご紹介します。
DVDが付属しますので、VFやVEを映像を通じて徹底的にトレーニングできます。
3.訓練から、生活へとつなげていく
嚥下評価の一助となる聴診器。
VF・VEがない現場ではとても助けられます。
それは、評価上できることと、生活上でしていることが、実際一致しているのかどうかを確認できる方法でもあるからです。
とある患者さんの話しですが、昼食のみ、やわらか食から固形物に食上げするも、病棟から時折ムセるという声をいただきました。
STが確認すると、かるい残留音がありましたが水分トロミでクリア。
また、頸部右回旋でもクリアすることがわかり、嚥下後の音変化やバイタルの変化はなし。
指示入りが可能ということもあり、各種訓練に代償法を加えることで、3食固形物を安定して召し上がることが可能となりました。
VFによる客観評価が取れずとも、状況に応じた対応ができるのが、頸部聴診法の良さだと考えています。

持ち運びが楽なのもポイント!
【重要】嚥下評価で意識すべき、大切なこと
頸部聴診法のポイントを3つお話しました。
これに加えもうひとつ、とても大切なことをお伝えします。
注意点:誤嚥性肺炎は”つねに変化する”ということ
頸部聴診をはじめ、各種評価法にて”つねづね評価”することは、病態変化をいち早くキャッチする秘訣になります。
誤嚥性肺炎はどれだけ注意していても、silentやNHCAPなどもあり、全身状態によっては「あたりまえに繰り返す」病気です。
注意なのは、各種評価にあぐらをかき、家族や病棟に、むやみなポジティブアナウンスをしてしまうこと。これは後々トラブルを招きかねません。
”誤嚥性肺炎(患者)はつねに変化する”という認識をもつことは、患者だけでなく、ST自身のリスク回避にもなります。
とりわけ、サルコやフレイル、水分in・out、栄養量、ラボデータなど、内科的情報の確認は、病態変化の予兆をいち早く、捉えられると考えています。

評価・観察は常に欠かさずに!
さいごに
さいごに、頸部聴診法で有名な「大野木」先生のことばをここに引用します。
- 嚥下前後の音を評価する!
- 視診・触診なども加えた総合評価をする!
- 聴診法は絶対ではない!必要時はVF・VEを!
- 日々トレーニングを積む!
頸部聴診法は一朝一夕で身に付くスキルではないため、音を聞き分ける意識を持ちながら日々の臨床に取り組むようにしています。
ではー!
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»【参考書紹介】ディサースリアへの徒手的アプローチを実践した結果
【文献より】頸部聴診法の診断精度
頸部聴診法の診断精度はこちらの文献に記されています。
判定精度、一致率について
嚥下障害(喉頭侵入・誤嚥・咽頭残留)の有無を頸部聴診法で判別させた調査では,80%以上の一致率で判定できたと報告されている。
感度特異度について
感度 90.8,特異度 92.3,判定一致率 91.0 の高い一致率で嚥下障害を判別できたと報告されている。
本記事執筆の参考にさせて頂いております。
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